愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「お礼は言ったが、抱きしめてはいない」
 花純はほっと息をついた。
「あいつが言ったのか?」
「うん」
「ろくなことを言わないな。ほかには?」
「あなたの子を妊娠してるって」
「妊娠!?」
 雅が大声を出した。
「ありえない、よくもまあ、そんなこと」
 ありえない、と繰り返しつぶやく。
「そういば、どうして私のいる場所がわかったの?」
 たずねると、雅は言葉に詰まった。
「雅もちゃんと言って」
 花純が重ねて求めると、雅はその美しい唇をゆがめた。
「そのバッグの猫」
 バッグチャームの猫だ。
「GPSがついてる」
「は!?」
 初耳だった。
「あなたのことが心配で心配で」
 雅に驚かされるのは何度目だろう、と花純は思う。もう数えきれないほど驚かされた。
「あなたを見失って、私が正気でいられると思うのか。鬼電しなかったのは、GPSで場所がわかっているからだ。ホテルに来たのもそれで気が付いた」
 半ばやけのように告白する。
「秘書が近所に住んでるから、先行してあなたを見張ってもらった。カラオケ店で追いついて一緒に乗り込んだらあんなことになっていた」
 花純を見ることなく、雅はまっすぐ前を見ていた。
「私が嫌いになったか」
「ううん」
 そのGPSの電波に色があるなら、きっと赤色だ。運命の赤い糸さながらに、陳腐と言われようと、きっとそうだ。
 そうして、雅は見つけてくれた。
 迷子になっても見つける。その約束を守って。
 そして、今度はもう花純も迷わない。
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