愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「これからは仕事の話もして」
「あなたが聞いてもつまらないよ」
「それでも。何も教えてもらえないのは不安だから」
 わかった、と雅は答えた。
 車は暗い高速を降りて、国道に出た。
 街の灯りが増えて、明るく道を照らしていた。

 車は電気の消えた遊園地の駐車場に滑り込んだ。
 花純が時計を見ると、もう午後11時半を過ぎていた。
「やっぱり終わってるね」
「大丈夫だ」
 雅は門を通って園内にまで車を進めた。
「え!?」
 園内をゆっくりと走り抜け、観覧車の前で止まる。
「着いた」
 雅が言った瞬間、すべての灯りがついた。
 眩しい光と大きな音と共に、遊具が動き出す。
 観覧車はきらきらと輝きながら回り出した。
「ど、どうして?」
「貸し切りだ。山の中の遊園地だから騒音の心配もない」
 いったいいくらかかるのだろうか、と花純はくらくらした。
 先に降りた雅は助手席のドアを開け、手を伸ばして花純を車から降ろす。
 階段を上り切り、いくつかのゴンドラをやり過ごす。
「さあどうぞ、愛しい人」
 雅は王子様のように彼女をエスコートしてピンクのゴンドラにのせた。
 中は色とりどりのカスミソウで飾られていた。
「きれい」
「私はカスミソウが好きなんだ。というか、好きになった。あなたと出会ってから」
 向かい合って座ると、雅はそう言った。
「可憐で健気な花だ。バラに負けない存在感がある」
 花純の中で、何かがへにゃへにゃと力なくへしゃげていった。
「雅っていうバラがあるって言われた。カスミソウなんて添え物だって」
「よくバラとセットにされるってことはお似合いってことだ。そもそも私の名前はバラにちなんでいない。雅の名を冠した花は何種類かあるし、バラに限定するのは作意的だな」
< 38 / 42 >

この作品をシェア

pagetop