愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
行為を終えたあと、女性は桜堂寺雅だと名乗った。
花純は雅に腕枕をされ、心地よい疲労と快感の余韻にひたっていた。
「すまない、加減ができなかった。痛くはなかったか」
「……大丈夫。初めてなのに、痛くなかった」
「初めて!?」
雅は驚愕し、花純をまじまじと見る。
花純は顔を赤くして目をそらした。
「責任をとる。結婚しよう」
雅が言う。
花純はあっけにとられた。
「ヒートが起きているオメガの女性を襲うなんて、私は最低だ。しかも、初めてだったなんて。さらに、首を噛んでしまった」
首を噛むのは番になるための行為だ。番になると、オメガはそれを解除されたとしてもそのほかの人と結ばれることは一生不可能になる。
「私は自分の意志で来たんです」
花純が慌てて言うと、雅は甘く微笑して花純を抱きしめた。
「あなたは優しいな」
花純はうっとりと雅に寄り添う。
初めて会った人なのに、まったく嫌ではなかった。それどころか、全身が彼女を歓迎し、彼女を求めた。フェロモンの関係なのかもしれなかったが、それ以上にもう雅を好きになっていた。すべてを彼女に捧げたくてたまらない。彼女のことなど何も知らないというのに。こんな気持ちは初めてだった。
「おかしなことを言う、と笑われるかもしれないが」
雅の前置きに、花純は首をかしげる。
「私はもうすっかりあなたに夢中だ」
私もです、と花純は答えた。雅はふふ、と笑った。
「すぐにご両親に挨拶に行こう」
彼女は有言実行した。
交代でシャワーを浴びて部屋を出た。
ホテルを出る前に、ショップでワンピースを花純に買った。
断ったが、必要な服だと言われて仕方なく受け取り、着た。
その後、宝石店に連れていかれた。
Hから始まるその店名を見て、花純は驚愕する。
ブランドにうとい花純ですら知っている。
上部がアーチ型になった重厚な構えの入口。おしゃれな鉄格子がはまったようなガラス戸。手垢なんて一つもなく磨き上げられている。
ドアの両脇にはアンティーク風のランプがあった。
スーツの男性が立っていて、入るときにはドアを開けてくれた。