愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「急で悪い、先ほど電話した桜堂寺だ。婚約指輪がほしい」
 雅が伝えると、女性店員が案内してくれた。
 一通り見終わると、どれがいい、と花純に聞いた。
 花純はひきつった顔で首をふった。
 桁が違う。どれも選べない。安くて100万、高いと1000万。庶民の花純が安易にほしいと言える値段ではなかった。
「困ったな」
 雅が首をかしげると、店員はこちらなどいかがでしょう、と2人を案内した。
 花純は驚いた。先ほど見とれた指輪だったからだ。
 上品でシンプルな造りなのに、華やか。一粒のダイヤが輝く。
「私はこっちのほうが似合うと思ったが」
 雅はダイヤが花の形に施された指輪を指した。
「豪華すぎて私には似合わないよ」
「あなたの名前にちなんでと思ったが。安易だったか」
 苦笑して、じゃあこれを、と彼女は勧められたダイヤを買おうとする。
「慌てなくていいじゃない、今日はやめようよ」
「嫌だ。私が買いたいんだ」
 雅は少しムッとしたように花純を見る。彼女は困って目を逸らした。
「心の準備とか」
 自分でも浅い言い訳だと思ったが、ほかになんと言っていいかわからなかった。
「じゃあ婚約指輪じゃなくていいから、どれか選んで」
 急に言われても、選べない。どれも素敵だし、どれも身の丈にあっていない。
 どうしたものかと目を彷徨わせる。
 と、一つの指輪が目についた。
「気に入るものがあった?」
 視線に気付いた雅がたずねる。
「これ、あなたに似合いそう」
 花純の指す先には直線的なラインの指輪があった。指輪の曲線を直線的に区切り、ダイヤをはめこみ、また直線をまた強調する。かっこいい指輪だった。
「私の指輪を買いに来たわけじゃないが、あなたの見立てなら」
 と雅は微笑した。
「あなたの指輪はやはり私が選ぼう。正式な指輪は後日また改めて」
 雅は先ほどよりは大人しめの花の形をした指輪と花純がかっこいいと思った指輪を買い、すぐに使うからとそのままもらう。
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