ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
 ビジネススーツを華麗に着こなす社員は、ガラス張りの洗練されたデザインのビルに吸い込まれるように入っていくのに対して、私は存在を消すように敷地の奥にあるクリーンルームへと向かう。

 化粧なんてする必要がない。なぜならここで全てを落とさなければいけないからだ。

 全身真っ白のつなぎ、クリーンウェアに着替える。頭や耳も隠した帽子を被り、さらにマスクもつける。そして眼鏡もしているので、外に出ている部分はほとんどない。

 本当は眼鏡をしていなくても目は見えるのだけれど、習慣でなんとなく外せなくなった。眼鏡は化粧をしていないことを隠せるし、徹夜明けのクマ隠しには最適だし、単純に便利だからつけている。

 女性は私だけなのだが、異性として見られたことはない。

 室内では不必要な会話はしてはいけない決まりになっているし、研究者たちは元々人に興味がないタイプが多いので、プライベートでも仲良くするということはない。

 そういう距離感が居心地いい。この仕事は天職だと思う。
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