ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
 容器の説明や使用方法に関する注意事項を流れるように説明し終え、さあ帰ろうとしたその時だった。

「なるほど、面白い」

 聞き知った甘い声がして、背中が粟立つ。

 まさかと思って声がした方を向くと、クリーンウェアを着たやけに背の高い男の人がいた。

(嘘でしょ、いつの間に)

 間に合わなかった。こんなに近くにいるなんて。

 幸運なことに、社長には私だということは気付かれていない。なんとかこの場を切り抜けなければ。

「あ~、ゴホン、ちょっと喉の調子が……」

 急に低い声に変えてみる。

「そうだったな、悪いな、体調悪いのに。もう帰っていいぞ」

 わざとらしいかなと思ったけれど、主任はなんの疑問も持たず心配してくれたので良かった。

「体調が悪いのですか? この前も急いで昼食を食べていた方ですよね? 過労で体調を崩しているとかではないですか?」

(う~わ、覚えられている)

 あの時、椅子から転げ落ちてしまったことが悔やまれる。どうして私はあの時、目立つ行動を取ってしまったのだ。
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