難攻不落の女
「あそこさ、笹目くん来てる」
 新井も彼のことを覚えているらしい。振り返って目が合うと、若者三人は恐縮したように何度も繰り返し頭を下げている。

「笹目くん以外は、私たちのことなんて他人なのに、なんで頭下げるんだか」
「宇美がいるからな」

「新井くんが貫禄あるからじゃない?」
「なんだよ、人の腹を見るなよ」
 笑い合って、グラスを合わせた。

「ここでよく、聞かれたくない話もしてたな」
「語ったわよえ、会社の将来のヴィジョンとかさ。自分になんの力があるわけでもないのに、変えられるって当たり前みたいに思ってたことが、今考えると不思議だわ」

「若さだな」
 新井がしみじみと言う。

「振り返ったときに、初めて気づくんだよね、そのことに。あと十年もしたら今の自分についても、あの頃はまだ若かったな、なんて語るのかと思うと嫌になるな」
 久々に飲んだウイスキーで、喉がかっと熱くなった。これをほとんど毎晩飲んでいた時期があったということが、信じられない。

「でも、実際に変わったな。変えたのか」
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