難攻不落の女
「そうね。まあよくやったよ、私も新井くんもさあ。うちの会社がベンチャー気質なんて言われるまでになったからね」
グラスを突き出すと、再度合わせる。
「でも、私が今の会社のためにやれるのも、あと少しかなと思ってるけどね」
本社勤務になってからは、ずっと人事部に所属している。そのまま駆け上がるように部長になったが、いつまでも同じポジションにはいられない。部署を転々としながらステップアップしてきた新井とはキャリアの積み方も違う。
彼が部署を渡り歩いたのは、この会社の未来に必要な人間だからだ。近々本部長に上がり、やがて常務取締役と会社を束ねる存在になっていくのだろう。
「私は次に異動になるなら、グループ会社かなと思ってる。やだよね、会社ってさ。仕事が早くなれば、量が増えるしさ。仕組みを作って、誰にでも同じことができるように整えると、作った人は用なしで異動だ。落ち着く暇もない」
「それなりの規模の会社には、開墾する人間も必要だってことだ」
異動の話を否定しなかった。もうすでに話が出ているのだろう。
「若いときは会社の歯車だったけどさ、役職上がるほどに誰かの踏み台になって、主役どころか、脇役だね。でも私たちがそういう会社にした、ともいうのか」
グラスを突き出すと、再度合わせる。
「でも、私が今の会社のためにやれるのも、あと少しかなと思ってるけどね」
本社勤務になってからは、ずっと人事部に所属している。そのまま駆け上がるように部長になったが、いつまでも同じポジションにはいられない。部署を転々としながらステップアップしてきた新井とはキャリアの積み方も違う。
彼が部署を渡り歩いたのは、この会社の未来に必要な人間だからだ。近々本部長に上がり、やがて常務取締役と会社を束ねる存在になっていくのだろう。
「私は次に異動になるなら、グループ会社かなと思ってる。やだよね、会社ってさ。仕事が早くなれば、量が増えるしさ。仕組みを作って、誰にでも同じことができるように整えると、作った人は用なしで異動だ。落ち着く暇もない」
「それなりの規模の会社には、開墾する人間も必要だってことだ」
異動の話を否定しなかった。もうすでに話が出ているのだろう。
「若いときは会社の歯車だったけどさ、役職上がるほどに誰かの踏み台になって、主役どころか、脇役だね。でも私たちがそういう会社にした、ともいうのか」