難攻不落の女
「おつかれさま、今日はもう終わったの?」
 極力普段と同じように、軽い調子で声をかける。宇美が自席に着くと、笹目が飛んできて、鞄からクリアファイルを取り出した。中にはA4サイズの紙の束がある。

「今日は提案させていただきたいことがあって」
 新機種の紹介か。今使っている機種はリースだが、かなりガタが来ているから、そろそろ潮時なのかもしれない。
 宇美は部屋の隅にある、観葉植物で仕切られた、応接用のスペースへと笹目を促した。

 ソファを勧め、向かい側に腰を下ろす。
「悪かったわね、待たせたみたいで」
「いえ、とんでもない」
 深々と頭を下げてきた。

 先月飲んだ話には触れてこなかった。ほっとした反面、やっぱりね、と失望する気持ちもあった。考えが変わったのだろう。これだから、人間関係は仕事だけがいい。深く入ってこられても、自分が傷つくだけなのだ。

「他の部署はもう回ったの?」
「いえ、まだです」

「笹目くんの提案を聞いて良さそうだったら、私から他に話を通すよ」
「えっ」
 彼はなぜか驚きの声を上げた。口を半開きにしたまま、瞬きしている。

「仕事は仕事だし、私の態度はこれまでと変わらないから」
 自分から先週の話題に触れて手を差し出すと、笹目はクリアファイルから書類を取り出し、おずおずと渡してきた。

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