偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「響一さんは花穂を気に入っているみたいだけど」

「まさか……もし仮にそうだとしてもカフェのスタッフとしてでしょ? あの人と付き合える女性は伊那みたいな大企業のお嬢様とか、特別綺麗なモデルとか、とにかく私みたいな平凡なタイプじゃないと思うよ」

「そうかな。私は花穂がちょっと押すだけで、簡単にいけると思うけど」

「無理だし、押しません」

 そもそも花穂は積極的に恋愛をしたいと思っていない。いや、するのに不安があると言った方がいい。

 幸せな恋愛ストーリーに憧れはあっても、現実的に考えると後ろ向きな気持ちになり、幸福感よりも憂(ゆう)鬱(うつ)さが勝るのだ。

 花穂の表情が曇ったのを見て、伊那が心配そうに眉を顰(ひそ)める。

「もしかして、元婚約者とのこと、まだ気にしてる?」

「……うん。もう忘れたと思っても、不意に夢に出て来たりするから」

 花穂の二十五年の人生の中で最も嫌な記憶。それは強烈に焼き付いたまま消えてくれな
い。

 あの出来事からもう三年経っていると言うのに――。
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