偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 廊下を進み東側の扉の先に畳敷きの居間がある。部屋の中央には唐木の大きな座卓があった。縁側からは広い庭が見えるが手入れが行き届いていないようで、どこか雑然としている。

(植木屋を呼ばないのかな。そう言えば、箕浦(みのうら)さんの姿も見えないけど)

 箕浦は通いの家政婦で花穂が子供の頃から城崎家で働いてくれている。現在六十歳を過ぎているはずだから、花穂が出て行ったあとに退職したのだろうか。

「お父さん、お茶を淹れて来ようか?」
「ああ」

 断られるかもしれないと思ったが、意外にもすんなり受け入れられた。

 花穂は立ち上がり台所に向かう。実家の台所はアパートとは比べ物にならない程広い。

 人工大理石のシンクには鍋など調理器具が使ったままの状態で置いてあった。

(やっぱり箕浦さんは辞めたみたいね)

 花穂は薬缶に火を点けると、その間に急須と茶葉を探し出す。

 すぐに見つかったので、溜まった洗い物をして布巾の上に並べる。家事をしていると、久しぶりの実家の居心地の悪さのようなものが徐々に薄れていくようだった。
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