偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 ちょうど終わったタイミングでお湯が沸いたので、冷めないうちに淹れて居間に戻った。

 父はすぐに湯飲みを手に取り口に運んだ。喉が渇いていたらしい。

 飲み終わるのを待って花穂は口を開いた。

「これ飲んだらお母さんの病院に行ってくね」

「いや、それよりも話がある」

「話?」

 入院している母のことより重要な話などあるのだろうか。

 父は険しい表情を浮かべているけれど、昔からいつだって不機嫌そうな顔をしていた人で、気分を察するのがなかなか難しい。

「東京での仕事を辞めて戻って来なさい」
「え……」

 予想外の言葉に思考が停止する。

「三年自由にさせていたんだ。そろそろ気がすんだだろう」

「ま、待って。気が済んだって、私は遊びに行ってたわけじゃないんだよ?」

 ひとりで東京に出た当初は自立する為に必死だった。カフェ開店の夢が出来てからは、目標に向けて休まず努力して来た。決して軽い気持ちではないし、遊んで暮らしていた訳じゃない。

「お父さん、私はもう実家に戻るつもりはないから。向こうで仕事をして自立出来ているし、将来の夢も見つけたの」
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