偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

 父は祖父から会社を引き継いだが、経営が上手くいかない為、広大な土地の一部を貸し出し収入を得ていたはずだ。それなのにまさか自宅しか残っていなかったとは。

(つまり、うちにはまともな収入が無いということよね?)

 植木屋を呼んでいないのは、経済的な理由だったのだと、混乱する頭の片隅で思う。

「母さんはこれから治療が必要だ。それなのに家がなくなったらどうする?」

「どうするって……」

「花穂の縁談が上手く行けば解決する。借金を返して、条件のよい仕事も紹介して貰えるんだ」

「……お父さんが会社勤めをするの?」

 人に頭を下げるのが苦手な父が出来るのだろうか。

「不本意だが会社の継続は無理だ。これからは家族で出来ることをやって行かないといけない。そのためには頭くらい下げる」

 父にとっては苦渋の選択のはずだ。なんでもやるという気持ちは伝わってくる。
 しかしなぜそれが取返しがつかなくなった今なのか。

(決心するのが遅すぎるよ……)

「花穂、お前も過去は水に流して家族の役目を果たしてくれ。母さんの為だ」

「お父さんが言いたいことは分かるけど、急過ぎてどうしていいか分からない」

 病気の母を放って置けない気持ちはある。
< 26 / 214 >

この作品をシェア

pagetop