偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 女性スタッフはそう言いキッチンの方に下がっていく。確認をしに行ったのだろうか。

 余計な発言をしてしまったかという僅かな後悔と、これまで殆ど休みを取っていなかっ
た彼女が数日不在ということに落ち着かない気分になる。

(何か有ったのだろうか)

 心配していると、ふと人の気配がした。女性スタッフが戻って来たのかと思ったが、そ
こに居たのはアリビオのオーナーである加納伊那だった。

 彼女は加納紡績の社長令嬢で、響一の六条家とも付き合いがある。と言っても響一との
関係は知人レベルで、この店のオーナーが彼女だとも知らなかった程。

 利用するようになったのは偶然で、気安く話すように変化したのは、花穂と親しくなっ
てからだ。

「響一さん、久し振り」

「ああ、伊那さんも元気そうだな」

「自由に好きなことをしていますから」

 伊那は加納紡績への就職を蹴りこのカフェを開いたそうだ。家族にかなり反対されたが、
押し切ったと聞いている。穏やかな花穂とは違い、強気で積極的な性格だ。
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