偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「スタッフに花穂のことを聞いたんだってね」
伊那は響一に対してあまり敬語を使わない。だから響一も伊那に対してくだけた口調になる。
「ああ。珍しく休んでるからどうしたのかと思って」
素直に答えたが、なんだか弱みを握られたような気になる。
「実家で問題があって休んでるの。このまま辞めることになると思う」
思いがけない返事に響一は眉を顰めた。
「数日前に話したときは、そんな話はしてなかったが」
彼女ともう会えなくなるかもしれない。そう思うと焦燥感がこみ上げる。
「急な話だったからね……花穂ね、実家の都合で急遽お見合い結婚することになったの」
更なる衝撃が響一を襲った。
(家の都合で見合いだって?)
カフェの仕事が好きだと言い、夢に向かって頑張っていた彼女が、見合結婚を望んでい
たとは思えない。恐らく何等かの事情がある。
今すぐ伊那を問い詰めて事情を聞きたい。しかし響一はその衝動をなんとか抑えた。
「詳しい事情を聞かせてくれないか?」
「どうして?」
伊那は響一をじっと見つめてくる。本心を見透かされそうな居心地の悪さを感じながら
も響一は目を逸らさなかった。
「心配だからだ。彼女が困っているなら手助けしたい」
「……閉店後にもう一度来て。片付けがあるから十時半以降がいい」
「分かった」