偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「とにかくそんな事情で花穂はアリビオを辞めるのよ」
伊那が気を取り直すように言った。
「辞めて実家に帰るのか?」
「残念だけどそうするしかないみたい」
(もう彼女に会えない?)
さっきも感じた不快感に再び苛まれる。受け入れがたいと強く思う。
「家の為とはいえ自分の将来を犠牲にするようなものじゃないか。なんとかならないの
か? 例えば伊那さんが支援するとか」
冷静な態度を装っているものの、内心は焦燥感でいっぱいだ。
「無理よ。私の私財でどうにか出来る問題じゃないし。仮にお金を貸してくれそうな人を
紹介すると言っても、あの子の性格なら遠慮すると思う」
「気が進まない結婚をして、夢を諦めることになってもか?」
他人に経済的な援助をして貰うことに不安や抵抗があるのは分かるが、親しい伊那の紹
介なら信用出来るのではないだろうか。
「そうよ。具体的な金額は聞いてないけど、花穂の家の負債はかなりのものみたいなの。