偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

 響一が暮らす六条本家は、閑静で歴史がある住宅街の一画にある。

 会社からは車で二十分程。幹線道路から外れしばらく進むと、周囲の雰囲気が落ち着い
たものに変化する。

 整備された広い道路脇には街路樹が整然と並び、その更に奥にはぐるりと壁で囲まれた
邸宅が続く。緑が多く一見東京とは思えない自然豊かな光景だ。

 住宅街のなだらかな坂を上りきると、六条家の屋敷が見えてくる。

 敷地は四百坪と、住宅街の中でも割と広い方だ。建屋は純日本家屋。祖父の時代に建て
たものなので、そろそろ改装が必要になる。

 響一はここで八十五歳になる祖父とふたりで暮らしている。

 幼い頃は両親も一緒に住んでいたが約十年前に離婚し、母は再婚済。父は独身だがパートナーがおり彼女と共に海外に移住した。

 響一は大学卒業後に一旦家を出て会社近くでひとり暮らしをしていたが、三年前に祖父が体調を崩したのをきっかけに戻って来た。

 未だ六条家で絶大な権力を握る祖父の周りには、サポートする人間やかかり付け医がいて生活するに困るようなことはない。
 それでもこの広い家にひとりというのがどうにも寂しく思えて同居を決意したのだ。

 そんな響一の行動に祖父は年より扱いするなという反応で全く感謝されていないが後悔はしていない。自己満足だ。
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