偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「響一、話があるから来なさい」
帰宅したらすぐに自室に向かうつもりだったが、珍しく玄関で祖父が待ち構えていた。
「はい」
響一は腕の時計をちらりと見た。午後十一時三十分。
日頃十一時には休む祖父が起きて待っているからには重要な話なのだろう。
花穂の縁談を潰すための段取りについて考えを纏めたかったが、そうも言っていられないらしい。
響一は気持を切り替えて祖父の後に続く。
中庭に面した広いリビングルームに入り、中央のソファに腰を下ろす。
住み込みの家事使用人が完璧に業務を遂行しているため、部屋は生活感がない程、常に美しく整えられている。
「会長、話とは?」
響一は前置きなく切り出した。
ちなみに会長とは祖父の元役職だ。数年前に引退しているが、今更〝おじいさん〟と呼
ぶのはお互いなんとなくしっくりこなかったため、今でもまだ変えずにいる。
「お前、結婚はどう考えているんだ?」
難しい顔でもったいぶった口調で告げられた言葉に、響一は脱力した。
「何かと思ったら、またその話ですか」
祖父が響一の結婚に口を出すのは今に始まったことじゃない。
半年に一度は思い出したように追及されているのだ。