偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
◇◇
十月一週目の土曜日。
花穂は父と共に、地元の高級料亭を訪れていた。
目的はお見合いだ。成人式以来の振袖を着付け、母行きつけのサロンでヘアメイクをした。
花穂はこんな格式ばったお見合いではなく、ホテルのラウンジでお茶を飲みながら、当人同士で顔合わせ、のような席を望んでいたが、父にあっさり却下された。
着なれない着物は苦しいし、口うるさい父にも疲れてしまう。しかし一番花穂の心を不安にするのは、やはり相手について殆ど知らないという事実だ。
身上書は確認したけれど、それでは人間性は見えてこない。どんなに立派な肩書で素晴らしい容姿を持っていても、中身は悪魔のような人間だっているのだから。
三年前の見合い相手でそのことを身を以て知った花穂は警戒せずにいられない。
緊張が高まったとき、閉じられた障子の向こうから足音が聞こえて来た。
(来た……!)
花穂はごくりと息を呑む。
(落ち着いて……しっかりしないと)
するすると障子が開く。花穂は伏せていた目を上げた。
「……えっ!?」