偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 次の瞬間、花穂は大きく目を見開いた。

(な、なんで?)

 一体何が起こっているのだろう。あり得ない光景に、酷(ひど)く混乱する。

 そんな花穂の耳に落ち着いた低い声が届く。

「六条響一です。遅くなり申し訳ありませんでした。本日はよろしくお願いします」

「あ……」

 花穂は口を開いたものの、うまく声が出て来ない。

(だって、どうして六条さんが?)

 父が決めた見合い相手は、地元で最も大きな果樹園の経営者だったはず。数年前から始めたワイン販売が当たりかなり羽振りがいいのだと父が得意気に話していたし、身上書にもそのようなことが書いてあった。

 茫然と響一を見つめていると目が合った。彼は少しも驚いていない。優しく目を細めて微笑み、落ち着いた振舞いで席につく。

 つまり彼は見合い相手が花穂だと、障子を開ける前から分かっていたのだ。

「お気遣いなく、時間通りですよ。東京からここまでは遠かったでしょう。ご足労をおかけしました」

 機嫌のよさが現れた父の声が耳に届いた。響一に対する気遣いも父にしては最上のものだ。

(知らなかったのは私だけ?)
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