偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 響一はほっとしたように目元を和らげる。

「会長……祖父は花穂さんと会うのを楽しみにしているから、大歓迎されると思う」

「そうなんですか?」

「張り切って歓迎の準備をしているよ。離れの改装や結婚式についても口出ししたそうにうずうずしていて困ったものなんだ」

 響一は参ったとでも言うように肩をすくめる。

「結婚式まで……」

「まるで自分が結婚するかのようにあれこれ調べている。もちろん改装も結婚式も花嫁の意見が最優先だと釘を差してあるから安心して」

「あ、はい。それは大丈夫です。結婚式についてはおじい様の希望になるべく沿う形でいいと思いますし」

 そもそも響一は祖父の為に結婚を決意したはずだ。

 それなのに花穂の好みの式にしていいと言われると困惑する。

 響一に愛されている訳ではない自分の好みなどを反映していいのか躊躇いがあることと、結婚式に対する夢のようなものがないからかもしれない。

(夢がないというより、現実味がないのかも)

 花穂は隣を歩く響一を横目で見た。グレーのジッパーニットに、黒のスキニーパンツというシンプルな装いなのに、彼自身の素材の良さが際立ち歩いているだけで人目を引く。

 端整な横顔はつい見入ってしまう程だ。

(こんな特別な人と結婚するなんてまだ信じられない)

 しかも彼はあの打算的な始まりが嘘に思える程、花穂に優しく心を開いてくれている。

「優しいんだな。でも本当に気を遣わなくていいんだ。一度きりの結婚式だ。よい思い出になる式にしよう」

 響一が柔らかく微笑む。

「……はい」

 花穂はドクンドクンと落ち着かない鼓動を感じながら、頷いた。

(一度きりの結婚式……響一さんは本当にそう思ってるの?)

 勘違いをしてはいけないと思っているけれど、響一が本当に花穂との結婚を望んでくれているように感じてしまう。

「楽しみだな」

 さらに優しくし笑いかけられると、胸の騒めきが止まらなくなるのだった。
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