偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

「伊那、また腕を上げたんじゃない？」
「まあ、毎日やっていれば何事も上達するでしょう。花穂もコーヒー淹(い)れるの上手くなっ
たし」

　伊那はクールに言い、スプーンで掬(すく)ったカレーを口に運ぶ。

「私はまだまだだよ。でもここで働けて勉強になってる」

　花穂の夢は、いつか自分も伊那のように自分の店を持つことだ。

　繋ぎのバイトのつもりが、いつしか真剣にそう願うようになっていた。

　小さくても寛ぎの空間になるような、優しい雰囲気のカフェを開業出来たら。

　そんな風に思うのは、仕事が好きだというのに加えて、家族親族と疎遠になった寄る辺なさから来る孤独感にあるのかもしれない。

　自分の居場所だと安心出来る場所が欲しいと強く思うのだ。

　だから日中は時給が高いコールセンターで働き開業資金を貯め、休日は資格取得の勉強や情報収集に務めている。

　勉強すればするほど厳しい現実を知り、開業までの道のりは遠く感じるが、それでも諦めずに頑張るつもりだ。

「開店の目途は立ったの？」