偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「自分以外は全員離婚して独身だからな。このままでは六条家が絶えると焦っているんだ。最近特に煩くなったから年齢のせいもあるのかもしれない」
「それに響一さんと広斗さんのことが心配なのかもしれないですね」
(たったふたりの孫には、幸せになって欲しいと思っているんじゃないかな)
結婚が幸せだと決まっている訳ではないが、祖父の価値観ではそうなのだろう。
「まあ、気にしてくれているのは確かだな。口は悪いが家族への情は厚い人だから」
「だから響一さんもおじい様を慕っているんですよね」
響一はなんだかんだ文句を言いながらも、祖父にかなり気を配っているし心配しているのが分かる。彼にとっては両親にも匹敵するような大切な家族なのだ。
花穂の言葉に響一は照れたように目を伏せる。そんな顔を見るのは初めてだった。
(少し、可愛いかも)
完璧で隙(すき)がない響一の印象が婚約してから人間味が溢れたものに変わっていき、今ではとても身近に感じる瞬間が度々訪れる。
「広斗さんは、結婚を考えていないんですか?」
響一は偽装結婚という方法を取ったが、彼はずっとのらりくらりとかわしていくつもりなのだろうか。
「……ああ。当分はしないだろうな」
響一の顔が僅かに曇った。