桜ふたたび 後編
千世はさっそくフォークを手に、
「ほんで、結婚式は決まったん?」
「結婚式? するのかな? そんな話、したこともなかった」
ジェイが今まで挙式について触れなかったのは、きっと澪の躊躇を察しているからだ。
カソリックの結婚は〝神に誓う〞もの。彼とて、上辺の宣誓をさせることは許されない。
千世は、モンブランの栗を丸ごと頬張り、もぐもぐさせながら、
「あんなぁ、男って、そーゆーのホンマにうといさかい、こっちからせっつかなあかんのよ。
セレブの結婚式、どんだけ豪華なんやろ〜って、今から楽しみにしてんのに、相変わらずのほほんとしてるなぁ、澪は」
「そうかな?」
「そうやん」
ふたりは顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
「しっかし、東京の電車ってすごい数やなぁ。あんな複雑でよう迷わへんもんやわ。人がアホほど多いし、なんや、みんなせかせかして、ぶつかっても謝りもせえへんの。
うちなんか、ドがつくほど田舎よ。廻りは山と田んぼ、住んでんのはの〜んびりした年寄りばっか。ぶつかるような人も歩いてへん。夏なんか、蛙がうるそうて寝られへんかったわ」
しゃあしゃあと言う千世に、「一度寝たら地震があっても朝まで起きないくせに」と、澪は心の中で笑った。
「村に一軒だけコンビニがあるんやけどな、それも武田の親戚筋やさかい、ポテチ買うのも気ぃ使う」
「大変ねぇ」
「何が大変って、年がら年中ある村の行事やわ! 氏神様の祭事やら、どこぞの家の法事やら、草刈りに溝さらい……。そのたんびに駆り出されて、忙しないったらありゃしない。しかも、まぁ、しきたりの多いこと!
特にうちは本家の嫁やろ? 注目度が高いんよ。ちょっとでも気ぃ抜いたら、後から何言われるかわからへん。ほんま、お手当ぐらいほしいわ」
文句ばっかり並べる割に、愉しそうだ。
社交家で、イベントが大好きな彼女には、田舎の生活は性にあっているのだろう。