桜ふたたび 後編
「目が覚めましたか?」

ぼやけた視界の中心に、心配そうな恭子の顔があった。

「赤ちゃんは……」

まだ朦朧とした意識の中で、澪はぽつりと呟いた。質問したと言うより、自問したという声だった。

「あとで……、センセイからご説明があるそうです」

──また、ひとりぽっちになった。

澪のなかに芽生えていた生命は、もういない。母性がそう告げていた。空洞になった子宮に、虚しい野分が吹き抜けた。

「もう退院できるんですって。ご家族にご連絡しましょうか?」

「いいえ……」

澪は無理に微笑もうとして、笑みを作ることができなかった。

「いろいろと、ありがとうございました」

「何か飲み物を買ってきましょう」

恭子は逃げるように病室を出た。痛々しくて、澪の顔がまともに見ることができなかった。
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