桜ふたたび 後編
「どうした?」
澪は答えない。
「厭ならキャンセルするけど……」
釈然としない。何が気に染まらなかったのか。
──風呂と温泉は、違うのか?
「もう少し、一緒にいられると思っていたから……」
一瞬耳を疑った。
今までの彼女なら、こちらが落胆するほどあっさりと、納得していた。
男の側からすれば、これくらいの我がままはむしろ可愛らしい。
嬉しさが、つい軽口を叩かせた。
「バハルへ一緒に行く?」
「はい」
意想外の答えに、提案者のほうが狼狽した。
今まで、澪を連れ出そうと言葉巧みに誘っても、彼女が首を縦にしたことはない。
常なら快哉を叫ぶところだ。だが、しかし、今回だけはどうしても、彼女を連れて行くことはできない。
ジェイは宙を見つめた。とんだ藪蛇だ。
「澪──」
寝返りを打った白い肩が、無言で抗議している。
「ごめん」
「いいえ、わかってます。仕事に女連れは拙いですよね。パリも近いし……」
そんなに怒らせたのか、澪が厭味を含ませるなど珍しい。
「澪、こっち向いて」
ジェイは宥めるように言った。
「……」
「向けよ」
体を起こして、力ずくで裏返すと、澪はオセロのように呆気なく上を向いた。