桜ふたたび 後編
[Rue Vieille du Trmple でいいんですね?]
サーラは投げやりに視線を窓に泳がせて、マリオネットのように頷いた。
街の明かりが流れ出す。窓に映った虚ろな顔が、ふと泣き笑いのような表情を浮かべた。
──残酷な方。
夜霧の街に邪険に放り出され、〈進む方角は自分で決めなさい〉と、突き放されてしまった。
これまで、進む道はいつだってお父様が示してくれた。進学も、習い事も、友人選びも、すべて──。
お父様の選択に疑問を抱いたことはない。従うことが当然だった。敬愛するお父様が、間違うはずがないから。
結婚も、お父様が、娘のために最高の相手を選んでくれたと信じていた。
大人で、洗練されていて、知性的でハンサム。誰もが羨むような完璧な男性。
だから、〈婚約者を愛しているか?〉と問われたら、何の躊躇いもなく〈ui.〉と答えた。年の差を心配する友人もいたけれど、気にはならなかった。
〈私には愛する女がいます〉と、彼に告げられても、それほどショックではなかった。もし支障があるなら、お父様がなんとかしてくださる。
自分もお母様のように、夫となる彼に生涯従順な妻でありたいと、心から願った。
──あの運命の出会いさえなければ……。