桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀
──桜はとうに散ってしまった。
ジェイはデスクに両肘をつき、額の前で指を組んだ。
誕生日にカードの一枚も贈らないフィアンセに、澪は心を痛めているだろう。
酷いことをした。あの細い肩で一人きり、悲しみに押し潰されて、また病気が再発していなければいいが……。
『珍しいこともあるものだ。君がお祈りか?』
ウィルが、いまさらながら入ってきたドアをノックする。
笑い顔の後ろから、リンが気の毒そうな表情を押し込めて、事務的に報告した。
『アブラモビッチに逮捕状が出ました』
『君の狙い通り。アランを出し抜こうとペテルギウスに食いついて、エリクソンとのホットラインを再開しようとした。
FSB(ロシア連邦保安庁)の思惑にまんまと乗せられて、隠し資金を動かすなど……馬鹿な奴だ』
『アランの動きは?』
朗報にも表情ひとつ変えないジェイに、ウィルは少し不満げにこめかみを掻いて報告を続けた。
『武器の横流しをオリガルヒ(ロシアの新興財閥)に嗅ぎつけられたと知って、スイスで検察の出方をうかがっている。いずれにせよ、二度と表舞台には戻れないな。
裸の王様になったミロシュビッチは、モスクワに向かったそうだ。元妻や子ども達から裏切られているとは知らず、まだ勝てるつもりでいるらしい。──逮捕は時間の問題だ』
むろん、最高レベルの弁護士団が、あの手この手で無罪を謀るだろう。
自分ならどう料理するか──ウィルは頭の中でシミュレーションした。
『でも、これでミロシュビッチはサハには戻れない。ヤクートの息子には、申し訳ないわ』
『まさか、親の敵を討たせてやろうと考えていたのか?』
リンは、当たり前でしょうと言うように頷いた。
先祖代々の土地を奪われ、父を殺害され、母を凌辱されあげく麻薬で廃人にされた。──殺しても殺し足りないだろう。
ウィルは身震いの真似をして、話を進めた。
『それで、モーリスのほうは?』
ジェイはパソコンの画面をウィルへ向け、そこに映る膨大な報告書を簡潔に説明した。
『シェイク・アブドラが既にコンサルタントを派遣している。
通信基幹はFMTとPMS、インフラ整備はミツトモが請け負うことが決定した。
SAM、ロイヤルシェル、ミツトモのタッグは、そのままバハルプロジェクトに生かされる。
これで後継者争いは、シェイク・アブドラの一歩リードだ』
──桜はとうに散ってしまった。
ジェイはデスクに両肘をつき、額の前で指を組んだ。
誕生日にカードの一枚も贈らないフィアンセに、澪は心を痛めているだろう。
酷いことをした。あの細い肩で一人きり、悲しみに押し潰されて、また病気が再発していなければいいが……。
『珍しいこともあるものだ。君がお祈りか?』
ウィルが、いまさらながら入ってきたドアをノックする。
笑い顔の後ろから、リンが気の毒そうな表情を押し込めて、事務的に報告した。
『アブラモビッチに逮捕状が出ました』
『君の狙い通り。アランを出し抜こうとペテルギウスに食いついて、エリクソンとのホットラインを再開しようとした。
FSB(ロシア連邦保安庁)の思惑にまんまと乗せられて、隠し資金を動かすなど……馬鹿な奴だ』
『アランの動きは?』
朗報にも表情ひとつ変えないジェイに、ウィルは少し不満げにこめかみを掻いて報告を続けた。
『武器の横流しをオリガルヒ(ロシアの新興財閥)に嗅ぎつけられたと知って、スイスで検察の出方をうかがっている。いずれにせよ、二度と表舞台には戻れないな。
裸の王様になったミロシュビッチは、モスクワに向かったそうだ。元妻や子ども達から裏切られているとは知らず、まだ勝てるつもりでいるらしい。──逮捕は時間の問題だ』
むろん、最高レベルの弁護士団が、あの手この手で無罪を謀るだろう。
自分ならどう料理するか──ウィルは頭の中でシミュレーションした。
『でも、これでミロシュビッチはサハには戻れない。ヤクートの息子には、申し訳ないわ』
『まさか、親の敵を討たせてやろうと考えていたのか?』
リンは、当たり前でしょうと言うように頷いた。
先祖代々の土地を奪われ、父を殺害され、母を凌辱されあげく麻薬で廃人にされた。──殺しても殺し足りないだろう。
ウィルは身震いの真似をして、話を進めた。
『それで、モーリスのほうは?』
ジェイはパソコンの画面をウィルへ向け、そこに映る膨大な報告書を簡潔に説明した。
『シェイク・アブドラが既にコンサルタントを派遣している。
通信基幹はFMTとPMS、インフラ整備はミツトモが請け負うことが決定した。
SAM、ロイヤルシェル、ミツトモのタッグは、そのままバハルプロジェクトに生かされる。
これで後継者争いは、シェイク・アブドラの一歩リードだ』