桜ふたたび 後編

「外資系のホテルに、お勤めしてるんですか?」

悠璃は怪訝な顔をした。

「はい、──それが何か?」

「そのホテルって……?」

声が震えた。思い過ごしであって欲しい。

「メディーナホテルです」

澪は全身から力が抜けていくような気がした。

「心当たりがあるんですね?」

悠璃は謎解きのヒントを見つけたように、体を乗り出して探るような目をした。

澪は困惑の顔を上げた。

澪如きに、こんな遠回しな嫌がらせをするとは思えない。
けれど、柏木がブラジル転勤になったと聞いたときから、違和感を感じていた。
悠斗たちを陥れた〝エックス〞がAXのことであれば、悠璃の破談も、アルフレックス家が関与しているのかもしれない。

澪は何度か視線を上げたり下げたり、言おうか言うまいか迷った末、ようやく覚悟を決め、一言一句、選びながら告げた。

「その……週刊誌に載っている、ジャンルカ・アルフレックスとわたしは、結婚を約束しています」

悠璃は、「そんな夢みたいな話」と開きかけた唇を、頭から打ち消すのも気の毒だと思ったのか、結び直した。
その代わりに、いまさらながら室内を見回して、「え? 嘘でしょ?」というように口を開けた。

きっと、これまで、まわりが見えないくらい気が張っていたのだ。

「でも、彼のご家族は反対されていて……」

悠璃は口を開けたまま、しばらく澪の顔を見つめていた。

「……え? じゃあ、これって……?」

澪は自信なく小首を傾げた。

「わかりません。あなたの言うとおり、わたしたちには接点がないし……。こんな回りくどいこと、するでしょうか?」

「でも効果はありましたよね? 自分のせいで妹の結婚がだめになったと知ったら、あなたは自分を責める。今みたいに」

なぜか悠璃は、快活に言う。

「すみません……」

澪はじっと頭を垂れた。
どんな非難を浴びせられても当然だ。
どうにかして彼女の結婚を取り戻したい。けれど、ジェイとの連絡を絶たれた澪には、術がない。

「ああ、すっきりしたー!」
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