桜ふたたび 後編

思いも寄らない明るい声に、澪は驚きの顔を上げた。
悠璃はにっこりと笑顔を返す。

「もともと結婚は、向こうのお母さんが乗り気だったんです。最初から結婚ありきって感じで。
私も普通の家庭を持って、早くママを安心させたかったから、なんか、押し切られちゃって」

〈普通の家庭が欲しかった〉──彼女も、身の上に悩みながら育ったのだろう。勝ち気を感じさせるのは、周囲の偏見から心を守るためだったのかもしれない。

「ほんとのこと言うと、ちょっと早まったって後悔してました。これ、絶対離婚するやつだっーて。結婚前に離婚をイメージするなんて、おかしいでしょう?」

表情に困る澪に、悠璃はまたにっこり笑った。

「彼、いつも私の意見を優先させてくれたけど、よく考えると、何でも丸投げされてただけ。だから、デートの行き先も決められないし、レストランの注文ひとつ時間がかかっちゃう。
だいたい、いい年してすぐお母さんに相談するんですよ。お母さんからの◯INEにも♡がいっぱい付いてて、ちょっと引く。今回も一緒にアメリカに行くんですって」

すらすらとくさす悠璃の口調は、未練や恨みはまったく感じられない。どちらかというと、面白がっているようにさえ聞こえる。

「それに、記事が本当の理由じゃないんです。きっと。だって、彼のお母さん、こう言ったんです。
〈稲山先生のお孫さんだし、ご両親は離婚されたのだと聞いてましたのに、騙されたのはこちらのほうです。嫁の出自で、息子の将来に傷がついたら大変ですから〉って」

心ない言葉に、澪は当人以上に腹を立てた。

悠璃にはなんの罪もない。
もし、責められる者がいるとすれば、父だろう。
璃子が懐妊したとき、離婚して本来あるべき所に戻っていれば、悠璃は〝普通の家庭〞を意識することもなかった。こんな酷い言葉を投げつけられることもなかった。
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