桜ふたたび 後編
澪の肩を抱いて踵を返そうとしたジェイは、驚いて目を見張った。澪が反転を拒んでいる。

澪は悲しげにジェイを見上げ、首を左右にした。

「忘れ物をしています」

「忘れ物?」

「あなたの今までを、否定しないで」

ジェイは心裏を突かれたように息を止めた。

心の隅に消えない迷いは、彼らを否定したまま訣別すれば、悔いを残す気がしたからだ。

自分は生い立ちを憎んでいるのか?
いや、アルフレックスの息子として育てられたことを、誇りに思っている。

自分は彼らを嫌悪しているのか?
いや、これからも、彼らを愛し続けるだろう。

人の心は二者択一できない。YESかNOかでは正解は見つからない。
それならば、訣別の前に、投げつけたままの言葉を拾いなさいと、澪は教えてくれる。

ジェイは深呼吸をして両親に向かった。

“あなた達に感謝しています。そして、愛しています”
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