桜ふたたび 後編

2、消えた花嫁

挙式開始予定、三分前。

ジェイはタクシーから飛び出すなり、聖堂へ駆け込んだ。
開け放たれた扉の前で、ルナとアレクが待ち構えている。

胸に白バラと鈴蘭のブートニアをつけたタキシードの新郎は、照れ笑いを浮かべながら、カフリンクスの角度を修正するふりをして、嫌みの一つも覚悟しつつ、彼らの間をすり抜けようとした。

『間に合っただろう? さあ、始めよう』

『ジェイ!』

ルナに腕を掴まれ、ジェイは怪訝な顔をした。

──晴の席だというのに、何て顔だ。たかが遅れたくらいで。

『文句はあとで聞く』

《ミオがまだなんだ》

アレクが狭い眉間に当惑を浮かべて言った。

屋敷から教会までは車で十分足らず。一本道で、渋滞するような箇所もない。
花婿を待たせるのがセオリーとはいえ、遅い。

『連絡は?』

『ミオのCell phoneは電源がオフになっていて──』

ルナの話の途中から、ジェイは胸ポケットからスマートフォンを取り出し、すまし顔で操作している。
ルナとアレクは呆れ顔をした。宣誓中に鳴り出しでもしたら、笑いごとではすまない。

『ファビオは留守だし、運転手とも連絡が取れないの。事故でもしてなければいいけど……』

『澪が電源を切るなんて、珍しいな』

ジェイは呟いた。
たしかに、何度かけても通じない。マナーモードにすることはあっても、いつこちらから連絡が入ってもいいように、常に備えている澪なのに。

《とにかく、俺が屋敷へ行ってみる》

《待て、アレク》

ジェイは、スマホを耳に当てながら呼び止めた。

《君が澪と入れ違いになると、testimoni di nozze(立会人)がいなくなる》

そして、電話の相手と短いやりとりをして、通話をしたままアレクに言った。

《リンとウィルが家に向かっている。彼らに探させる》

ウィルに用件を伝え、続けてかけたファビオへの電話は、長くなった。

澪は三十分前に家を出発していた。ファビオと数名の使用人が車寄せで澪を見送っている。
その十分後にブドウ畑で小火騒ぎが起こり、ファビオはそちらに駆けつけていた。通報は悪戯だったが、そのせいでルナからの問い合わせに即応できる者がいなかった。

──作為を感じる。

ジェイは舌打ちして、再びスマホを耳に当てた。
< 216 / 270 >

この作品をシェア

pagetop