桜ふたたび　後編

4、昼間の月

ひっそりと静まりかえった聖堂は、すでに照明が落とされ、祭壇脇の小さな灯火だけがジェイを照らしていた。

一見すると祈りを捧げているようだが、彼は黙祷しているのでも、懺悔しているのでもない。
今、彼の頭の中では、様々な情報がハイスピードで処理されていた。

事件発生から、すでに二時間。警察によって非常線が張られた時点で、犯人はもう国境を越えていた可能性が高い。

国家警察では手が届かない。カラビニエリ（国防省警察）を動かすと国際問題になりかねない。
相手を刺激せず、密かに動くには、ウィルの犯罪知識とニコの情報収集、そして、レオの機動力に賭けるしかない。

背後に靴音が響いた。
ジェイは頭を垂れたまま、瞼を開けた。

『澪の家族たちはどうしている？』

ジェイに並ぶ位置で足音が止まった。
ウィルは十字架を見上げながら答える。

『ミオは大事を取って入院させると、ジェイが断固として言い張るから、結婚式は改めて日本で行うと説明したら、君の過保護に呆れながら、かえって喜んでいたよ。
明日の帰国まで、どこまで誤魔化し通せるかは、柏木とリン次第だな』

『そうか』

ジェイはようやく顔を上げた。

『形跡は？』

ウィルはため息まじりに首を振ると、通路を挟んだ長椅子に腰を下ろした。

『ニコが付近の監視カメラをハッキングしたが、目ぼしい映像はなかった。ミオのパスポートは部屋に残っていたから、シェンゲン圏内にいるのは間違いないが……』

珍しくウィルが言葉を躊躇った。

『何だ？』

俺の口から言わせる気かと、ウィルは一度肩で息をした。

『本当に、奴の犯行なのか？』

『自信がないのか？』

『いや……しかし、奴の仕業なら、ミオの命の保証はない』

ジェイの眉が微かに動いた。
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