桜ふたたび 後編
ジェイが目を伏せたとき、猛烈な勢いで扉が開いた。
と同時に、イボイノシシのような男が猛然と駆け込んできた。
血色の悪い浮腫んだ顔に、吊り上がった目。パーツの配置が中央に寄っている。
大学教授のような口調でインテリぶっているが、ウィルは〈虚言癖の佞臣〉と揶揄していた。
ウィルの懸念はわかるが、一度金に転んだ人間は、金に取り憑かれる。ジェイからすればいっそ清々しい。
男は小太りの胸を揺らしてジェイの前までやって来ると、前置きもせずに怒鳴った。
『どういうことですか!』
リンが眉根を寄せた。
『カルロス。打ち合わせ中よ』
『一刻を争うんだ!』
カルロスはリンを振り向きもせず、うるさいとばかりに声を上げた。
『ジェイ!』
ジェイは彼を見ることもなく、静かに言った。
『君は、クライアントの指示に従えばいい』
『私はあなたのマネーマネジャーです。あなたの資産を保全する責任がある』
『資産保全について契約した覚えはない』
カルロスはむっと鼻を膨らませたが、ここは感情的になったら負けだと判断したのか、鼻をひくつかせながら深く息を吸い、堪えるようにゆっくりと吐いた。唸るような咳払いが部屋に響く。
『あなただけの問題ではないでしょう? あなたの行為は、AXや、ここにいる仲間たちに対する裏切りだ!』
聞き捨てならないと、リンが不愉快な顔をした。
『どういうこと?』
『カルロス、守秘義務違反だ。出ていけ』
ジェイが冷然と放った。
だが、カルロスは諦めなかった。ウィルも顔負けの大袈裟なジェスチャーで続ける。
『こうしている間にも、あなたとSAMの持ち株は売られ続けている。他のディーラーが気づくのも時間の問題だ。このままでは、AX株は暴落します』
室内が静まり返る。
驚愕の視線を浴びて、ジェイは目を閉じた。