桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀


同時刻、リールの小学校の正門前に、一台の車が停まっていた。
運転席にはレオ、助手席にはカール。
ふたりは、おしゃべりしながら正門を出てくる子どもの顔を、目を皿にして確認している。

程なく、カールが指さした。

『メル!』

赤茶色の髪の少年が、友だちと手を振りあいながらこちらに歩いてくる。

カールは車から飛び出すと、メルの背後に回り、まるで初恋の相手を前にはにかむ少年のように、もじもじと後を追っている。

レオは防犯カメラの配置を再確認して、カールの後ろからメルに声をかけた。

[メル]

そばかすの少年が、きょとんと振り向いた。 

[あ、カールだ!]

『メル、メル』

カールはパンパンパンパンと手を叩いて、巨体を揺らす。
その太股に、少年はコアラのように抱きついた。

[リールに来てたの? いつ?]

レオはこの上ない善良な笑みで、ソフトハットを取った。

[ボンジョルノ、メル]

少年はレオをちらりと見て、あからさまに警戒の色をにじませた。

[ボンジョルノ。おじさんは誰?]

レオはぐいと上方にあるカールの肩に手を置いて言った。

[カールの伯父さん。一緒に旅行してるんだ]

[ジョージアから来たの?]

[いや、マルセーユから来たんだ]

[ふ~ん]とつれなく呟き、メルはくるりと回れ右する。

[おじさん、何か悪いこと言ったかな?]

メルは後ろを振り向かずに、

[ママンに、知らない人と喋ってはダメって言われてるんだよ。もうすぐママンが迎えに来るから、叱られちゃうでしょ?]

レオは成る程と頷いた。彼も娘たちに口を酸っぱくして注意している。

[そうか、ごめんね。でも、カールが一緒ならいいでしょう?]

メルはちょっと首をかしげ、それからひまわりのような笑顔を浮かべて、体をくるりと反転させた。

[うん!]
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