桜ふたたび 後編


三人は、メルを真ん中に一列になって、学校の煉瓦塀に背中を凭れた。
温暖冷涼なリールは、すでに晩秋から冬へ向かっていた。それでも、日中の熱を吸収した煉瓦が、背中をじんわりと温めてくれる。

レオは、冷たくもない手を擦りあわせながら言った。

[やっぱりリールは寒いね]

[マルセーユは太陽がいっぱいあるんでしょう?]

レオは体を起こして、メルに大きく目を開いた。

[よく知ってるね。行ったことがあるの?]

[ぼくはないけど、パパが言ってた。お日様が海にたくさん反射して、キラキラしてきれいなんだって]

意外にも、アランはいい父親らしい。

[そうか、パパは物知りなんだね]

感心して見せると、メルはうんと嬉しそうに返す。
レオは再び塀に背を預けた。

[おじさんは田舎から出たことがなかったから、知らないことばかりだよ。パリなんか人も車もいっぱいで、びっくりしたなぁ。メルは行ったことある?]

[へへ]

少しの優越感と照れを混ぜて、メルは鼻の下を指でなぞった。

[パリなんかしょっちゅうだよ]

[いいなぁ。ジョージアにも行ったんだったね。他にどんなところを旅行したの?]

[春休みと夏休みはニューヨーク。ママンのお仕事で行ったから、ぜんぜん遊べなくてつまんなかった。だから、代わりにラップランドに連れてってくれたんだ]

琥珀色の瞳が閃いた。レオの動物的直感が、核心の匂いを嗅ぎつけた。
だが、焦りは禁物だ。
< 243 / 270 >

この作品をシェア

pagetop