桜ふたたび 後編

4、攻防

『ラップランド⁈』

ニコの声に、書類に目を通していたジェイは、微かに片眉を上げた。
ニコは、リンとウィルを目配せで召集し、ハンディーフリーに切り替え、声を潜めている。

『ラップランドって言ったって、広いですよ。アーシャは愛称かな? アレクサンドラ? アナスタシア? ヨアナ?』

何度かの問答の末、ニコがパソコンと格闘するのを、リンとウィルが背後から真剣な表情で覗き込んでいる。

『情報が少なすぎる』

ニコが拳を口に当て嘆息した。
リンとウィルも落胆の色を隠せない。

『ラップランドがどうした?』

ジェイに問われ、三人は一瞬顔を見合わせたが、観念したのか、ウィルが頭を掻きながら答えた。

『例のエマだが──』

ジェイの目が冷たく細められる。
アランとの会見以降、澪の捜索は私立探偵に一任し、ウィルたちには手を引かせたはずだ。

『事件の前後、メルをラップランドに住むアーシャという姉妹に預けている』

『でも、メルは澪を見てないんだよ』

『つまり、監禁場所はアーシャの自宅ではないってことよね。どこに隠したのかしら?』

『アーシャが鍵を握ってそうだが……』

考え込む三人に、ジェイはこともなげに言う。

『医療機関だな』

『医療機関?』

三人が声を揃える。
< 247 / 270 >

この作品をシェア

pagetop