桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀
十年前のセント・ジョンズ・イヴ。
窓硝子越しの広場は薬草や花で飾られ、夏至祭の焚き火が赤々と燃えていた。
健康と良縁を願い、焚き火を囲んで楽しげに踊る町の人々の姿。シアーシャは頬を緩め、予定時刻ちょうどに、父の執務室へお茶を運んだ。
ドアを開けたとたん、いきなりの怒声。
シアーシャは息を呑んだまま身動きができなくなった。
ビクトリアン・ゴシック様式の重厚な室内。フォレストグリーンの壁には、ベルファストの風景画やモノクロ写真が飾られている。町を愛し、発展のために尽力した父らしい。
敬虔なカソリックで謹厳実直。堅物とさえ言われた彼も、窓際の机に置かれた姉妹の写真を見つめるときだけは、頬を緩めていたという。半年前に他界した秘書が、静かに打ち明けてくれた話だった。報われぬと知りながら、父を最期まで愛した人だ。
そんな、常に清浄であったはずの部屋に、不穏な空気が絹を焦がしたように澱んでいた。
中央のテーブルを挟むのは六人。
興奮して立ち上がり、テーブルから身を乗り出したリーアム。
恐怖と羞恥に項垂れ、それでもなお美しい姉。
ただ唖然とリーアムを見上げる、父の窶れた横顔。
その対面には、静かにリーアムを見上げるシルバーグレイの小柄な男。
足を組んだ馬面の男は、書類を前にニヤリと口端を上げたように見えた。
どちらも姉より少し上、三十代半ばだろうか。
二人の間に座る黒髪の青年は、まるで美しい彫刻のように姿勢を崩さず、微動だにしない。
十年前のセント・ジョンズ・イヴ。
窓硝子越しの広場は薬草や花で飾られ、夏至祭の焚き火が赤々と燃えていた。
健康と良縁を願い、焚き火を囲んで楽しげに踊る町の人々の姿。シアーシャは頬を緩め、予定時刻ちょうどに、父の執務室へお茶を運んだ。
ドアを開けたとたん、いきなりの怒声。
シアーシャは息を呑んだまま身動きができなくなった。
ビクトリアン・ゴシック様式の重厚な室内。フォレストグリーンの壁には、ベルファストの風景画やモノクロ写真が飾られている。町を愛し、発展のために尽力した父らしい。
敬虔なカソリックで謹厳実直。堅物とさえ言われた彼も、窓際の机に置かれた姉妹の写真を見つめるときだけは、頬を緩めていたという。半年前に他界した秘書が、静かに打ち明けてくれた話だった。報われぬと知りながら、父を最期まで愛した人だ。
そんな、常に清浄であったはずの部屋に、不穏な空気が絹を焦がしたように澱んでいた。
中央のテーブルを挟むのは六人。
興奮して立ち上がり、テーブルから身を乗り出したリーアム。
恐怖と羞恥に項垂れ、それでもなお美しい姉。
ただ唖然とリーアムを見上げる、父の窶れた横顔。
その対面には、静かにリーアムを見上げるシルバーグレイの小柄な男。
足を組んだ馬面の男は、書類を前にニヤリと口端を上げたように見えた。
どちらも姉より少し上、三十代半ばだろうか。
二人の間に座る黒髪の青年は、まるで美しい彫刻のように姿勢を崩さず、微動だにしない。