桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀
ヘリコプターの音が屋上で止んだ。
特別階のナースステーションで一人待機を命じられたアイラは、つまらなそうに日誌を書きながら、「あーあ」とため息をついた。
──ヘリまで飛ばすなんて、大袈裟じゃない?
だいたい、押し付けられて鍵を開けに行ったのに、まるで自分がやらかしたかのような空気になっているのも腑に落ちない。
確かに、ちょっと気を許していたところはある。だけど先輩たちだって、似顔絵を描いてもらったり、折り紙を教えてもらったりと、気安く接していた。
穏やかで優しいひとなのに、こんな所に閉じ込められて可哀想と、みんな同情していたのだ。
とはいえ──
ヒグマ出没の話で嚇かしたときには震え上がってたくせに、まさか脱走するなんて。ヤマトナデシコは、おとなしいふりをして大胆だ。
〖でも、今ごろ後悔してるんじゃないかな。外は暗いし、寒いし──〗
ひとり言を呟いたそのとき、廊下に微かな靴音がした。
アイラは椅子から腰を浮かせて、カウンター越しに目を凝らした。
黒髪の男が、暗い廊下をこちらに向かって歩いてくる。なんだか目だけが異様に光って見える。
──誰だろう? こんな時間に、見舞い客?
アイラは大きなヒソヒソ声で言った。
〖このフロアは立ち入り禁止ですよ。それに面会時間は過ぎていますから、明日にしてもらえます?〗
──この階は、職員専用エレベータでしか出入りできないのに、何で入ってきちゃったんだろう。
腹立たし気に考えて、ふと気づいた。
──あれ? 今この人……屋上の階段から降りてこなかった?
不審が眉根に現れたのと同時に、背後から口を塞がれた。腰に冷たい金属の感触。
悲鳴を上げかけたアイラの耳元で、ビブラートのかかった声が囁いた。
『お静かに』
ヘリコプターの音が屋上で止んだ。
特別階のナースステーションで一人待機を命じられたアイラは、つまらなそうに日誌を書きながら、「あーあ」とため息をついた。
──ヘリまで飛ばすなんて、大袈裟じゃない?
だいたい、押し付けられて鍵を開けに行ったのに、まるで自分がやらかしたかのような空気になっているのも腑に落ちない。
確かに、ちょっと気を許していたところはある。だけど先輩たちだって、似顔絵を描いてもらったり、折り紙を教えてもらったりと、気安く接していた。
穏やかで優しいひとなのに、こんな所に閉じ込められて可哀想と、みんな同情していたのだ。
とはいえ──
ヒグマ出没の話で嚇かしたときには震え上がってたくせに、まさか脱走するなんて。ヤマトナデシコは、おとなしいふりをして大胆だ。
〖でも、今ごろ後悔してるんじゃないかな。外は暗いし、寒いし──〗
ひとり言を呟いたそのとき、廊下に微かな靴音がした。
アイラは椅子から腰を浮かせて、カウンター越しに目を凝らした。
黒髪の男が、暗い廊下をこちらに向かって歩いてくる。なんだか目だけが異様に光って見える。
──誰だろう? こんな時間に、見舞い客?
アイラは大きなヒソヒソ声で言った。
〖このフロアは立ち入り禁止ですよ。それに面会時間は過ぎていますから、明日にしてもらえます?〗
──この階は、職員専用エレベータでしか出入りできないのに、何で入ってきちゃったんだろう。
腹立たし気に考えて、ふと気づいた。
──あれ? 今この人……屋上の階段から降りてこなかった?
不審が眉根に現れたのと同時に、背後から口を塞がれた。腰に冷たい金属の感触。
悲鳴を上げかけたアイラの耳元で、ビブラートのかかった声が囁いた。
『お静かに』