桜ふたたび 後編
シアーシャはキアラの二の腕をさすり、子どもを諭すように声を落として言った。

『あなたはアランに利用されているのよ。お願い、目を覚まして』

『殺人犯の娘と世間から蔑まれ、何もかも失った私たちに、手を差し伸べてくれたのはアランだけよ。病院も、エマ・マイヤーという新しい名前も、メルという宝物も、彼が与えてくれた』

『メルに私たちと同じ苦しみを与えるつもりなの?』

追いすがるシアーシャの鳩尾にキアラは拳を入れた。
一瞬の出来事でシアーシャは避けられなかった。
ぐったりと気絶した妹を床に寝かせて、キアラは玄関を飛び出した。

──森に逃げ込んだに違いない。

この寒さの中を、そう遠くまで歩けるはずがない。
キアラは壁に立てかけられたスキーを履くと、森の中へ消えて行った。
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