桜ふたたび 後編

〝人生どこでどう狂うか──〞
それはジェイへの皮肉も含まれている。
彼ともあろう者が、たかが失恋で喪心するとは……。リンから聞かされたときには、開いた口がふさがらなかった。

だが、考えてみれば、ジェイも人の子なのだ。銃弾を受ければ赤い血が流れるし、愛を失えば、心傷つく。
ウィルも、本人でさえも、〝ジャンルカ・アルフレックス〞を、どこか神格化していたのかもしれない。

リンは言った。〈澪と初めて会ったとき、AXの禍になると予感した〉と。
それはある意味で正解だった。ジェイを一人の男へと変えてしまったのだから。

そしてまた、彼を立ち直らせたのも、彼女なのだ。

『澪の消息を調べろ』と、ジェイの妹からお門違いの指令を受けたリンが、柏木を紹介したその一週間も経たぬうちに、ジェイが戻ってきたことが、何よりの論拠だ。

『それで、その赤毛の女は、まだ見つからないの?』

ウィルは渋い顔をした。
レオの情報を元に、トミーが極秘に借りていたアトランタのコンドミニアムに乗り込んだときには、女はすでに姿を消していた。一足遅かった。向こうが一枚上手だった。

『まあ、コンドミニアムを張ってた甲斐あって、役にも立たん実行犯は確保したけどな。……結局、俺らはアランに踊らされたわけだ』

笑えない自虐に、今度はリンが厭な顔をした。

『あれは、何をしているんだ?』

ジェイの質問に、ウィルとリンはリビングへ視線を向けた。

レオと二人の娘たちが、愉しそうにローテーブルを囲んでいる。
姉は八歳、妹は六歳。砂糖菓子のような金髪と青い瞳が、ピクスドールのように愛らしい。どちらも母親に似て美人になるだろう。

ウィルは思わず頬を緩ませ、すぐさまレオへ同情の目を送った。
彼にも十五歳の娘がいる。前回の面談では、彼氏を紹介されて無様なほど狼狽えた。
娘を溺愛するレオにも、近い将来、同じショックが待ち受けているのだ。
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