桜ふたたび 後編
「気になるようね?」
ガゼボを振り返り見る茉莉花に、涼子は静かに声をかけた。
茉莉花はムッと唇を結び、疎ましそうにシルクストールを跳ね上げた。
「マダムも、贔屓されるのなら相手をお選びにならないと」
涼子はニヤリと笑うと、血の色をした薔薇の花をブランデーグラスのように掌に置き、じわじわと指を閉じていった。
そして、茉莉花の耳に届くように、声を高くして、
「彼女、葵のクライアントなんですって」
茉莉花のヒールが、カツリと芝生に音を立てた。
「家庭教師をしているそうよ、英会話の」
茉莉花はいきなり鬼の形相を振り向けた。
「どうして葵様が家庭教師などされる必要があるの? そんなにお困りなら、私が伯父様にお願いして差し上げるのに」
「残念ね。葵は自由を選んだの。実家からの援助は一切受けないわ」
──あなたたちのその高慢さを嫌って、家を捨てたのだから。
涼子は言わなかった続きを、花弁に包んだまま、そっと握り込んだ。
葵とは、十五年前、役作りのために入校したサロンで知り合った。
共演したアイドルのファンから誹謗中傷され、追い討ちをかけるようにつまらないことで炎上して、世間に嫌気が差していた頃だ。
清々しいまでに芯のスッキリと通った葵の存在は、ドロドロした芸能界で育った涼子には新鮮で、やがて親友と呼び合うようになった。