桜ふたたび 後編
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パークアベニューに聳えるアールデコ様式の名門ホテル。歴代大統領や各国首脳が定宿とするその場所も、いまはAXの傘下にあった。

華やかなボールルームは、セレブリティたちによる盛宴の真っ最中。
緊急招集の目的が、まさかチャリティーイベントへの参加ではあるまいと、ジェイは用心深く辺りを見渡した。

上院議員夫妻との歓談を中断し、片手を挙げ彼を呼び寄せるのは──
AXホールディングスCEO フェデリーコ・アルフレックス(フェデー)。

齢七十を迎えると言うのに、相変わらずバイタリティあふれる男ぶりだ。プラチナの髪と化した頭を撫でるように光が流れ、氷のようなグレーの瞳には、今なお飢えた獣のような光が宿っていた。

近年は主にフィランソロピー(企業ボランティア)に力を入れているが、彼が商売抜きで慈善事業に勤しむとは考えられない。そこには莫大な利益が埋蔵されているのだ。

フェデーの横には、カクテルドレスのマティーの姿もある。
両親そろって会うのは、半年前の更迭宣告以来かと、ジェイは寒々とした感情を甦らせた。

『急に呼び出して、悪かったな』

一瞬、悪寒が走った。
空気がおかしい。手ぐすね引いて待ち構えていた相手に、取り囲まれたような気配だ。

『元気そうじゃないか』

空々しい声に振り返ると、背後にエルの姿があった。

──伏兵は兄か。

ジェイは心の中で薄ら笑った。

エルは、美しい娘を伴っている。
ジェイの視線に、娘は真っ直ぐな目をして可憐に微笑んだ。

『こちらはサーラ・デュバル嬢』

ジェイは微かに眉を動かした。

『ロイヤル・シェルのお姫様だ』

ロイヤル・シェルグループは、エネルギー事業をグローバルに展開するフランス随一の財閥系企業だ。金融・流通・通信・科学・IT産業はもちろんのこと、アカデミック方面にも注力している。
一族のドンであるフィリップ・ド・デュバルは、国内の政財界はもとより、ヨーロッパ諸国の王室・政界・財界に、幅広いコネクションを有していた。

ジェイは、勘が当たったことを歓ぶより、悔やんだ。これはまずい展開になる。
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