再縁恋~冷徹御曹司の執愛~

3.冷酷御曹司の優しさ

「――この資料はなんだ」


出勤するなり、昨日提出した道路に関する書類を投げ返された。

嵯峨ホールディングス札幌支社に勤務して、半月ほどが経った。

現在私は渕上さんの補佐として、副社長秘書を務めている。

いまだに直接名前を呼ばれず、必要最低限の、仕事に関する会話しか交わしておらず、秘書としての役目はまったく果たせていない。


「指示された周辺道路の詳細です」


返答する声が、緊張で上ずりそうになる。


「この程度、ネットや役所でだって確認できる。少し調べれば誰でもわかる情報など不要だ。現地在住の秘書をわざわざ、なぜ捜したと思っている?」


執務机越しに鋭い視線を向けられ、焦りと恐れで心音が速くなる。

整った容貌が不機嫌そうに歪む。

秘書課や副社長室には男女問わず各課の社員が指示の確認などで頻繁に訪れる。

彼らには柔らかな表情も見せているが、私と話すときは大抵眉間に深い皺が寄っている。

視線は合わず、口調はいつも厳しい。

見事な嫌われっぷりだ。


「申し訳、ございません」


不興を買った私は謝罪するしかない。

突き返された書類を取り上げる手に嫌な汗が滲む。

的確な素早い返答を求められても、いつも緊張で饒舌に話せない。

もたつく私に副社長の機嫌はさらに降下していく。
< 15 / 200 >

この作品をシェア

pagetop