再縁恋~冷徹御曹司の執愛~

6.刹那の幸せ

髪を優しく撫でられる感触に、うっとりと酔いしれる。


もっと、触って。


甘えるように体と頬を押しつけると、優しい声が耳に響いた。


「――それ以上誘惑するなら、もう一度抱くぞ?」


夢にしてははっきりとした声に、重い瞼をゆっくり持ち上げる。


「起きたか?」


無駄な脂肪が一切ついていない見事な上半身をさらした副社長が、私の目を覗き込む。


「……え?」


「おはよう、希和。体、平気か?」


するりと私の頬を手の甲で撫で上げ、尋ねる。


体……?


問われて視線をそろりと下に向けると、むき出しの肩といくつもの赤い跡が見えた。


お、思い出した、私……!
 

一気に体温が上がると同時に目が覚めて、昨夜の記憶が鮮明に呼び起こされる。

 
甘く激しい行為に意識が遠のいたのは覚えている。

けれどしばらくして戻ると、また求められ、結局明け方近くまで肌を重ねていた。

最後のほうは疲労感と心地よさが混ざって、ほとんど記憶がない。


「……悪い、無理させた。可愛すぎて歯止めがきかなかった」


コツンと私の額に自身のものをぶつけて、小声でつぶやく。


「だ、大丈夫、です」


それ以外の答えが見つからない。
 
こういうときは、なんて答えるのが正解なの?


自分の恋愛経験のなさが恨めしい。
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