飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
月曜日、琴鳥は会社を休んで弁護士事務所を訪れた。
それは小さなビルの2階にあった。
来たくはなかった。
だが、美鷹のことを考えてしまって苦しくて、どうしようもなくなってパラリーガルの万希にもらった名刺を頼りに来たのだ。
町の名を冠したその事務所に勤める弁護士は、所長と彼の2人だけだった。
出迎えた万希が彼に来訪を告げると、彼は琴鳥を近所の公園に連れ出した。
「室内でまたフェロモンを出されると困るからな。外なら希釈されて影響が少ないだろう」
発言は不快だったが、琴鳥には文句は言えなかった。
この日の彼はメガネをかけていなかった。ぼさぼさ頭とくたびれたスーツは相変わらずだった。殴られた左頬に肌色の湿布を貼っていた。
晴れた空に、白い雲がきれいだった。暑かったが、真夏とちがってどこか空気に爽やかさがあった。
住宅街にあるさほど広くはない公園だった。砂場では親子連れがのどかに遊んでいる。
片隅のベンチに2人で座る。男は琴鳥の左側に座った。
ハトがエサを求めてよちよちと寄ってきた。が、すぐに何もらえないとわかり、離れて行く。その少し先には群れがいた。
「助けてくださって、ありがとうございました」
琴鳥が礼を言うと、男はじろりと彼女を見た。
「あの女には近づくなと言っておいたが」
あんな言い方でわかるわけない。
ムッとしたが、言い返せない。
「あの女は、前から異常だった」
琴鳥にかまわず、男は続ける。
「ニュースで聞いただろう。あの女はオメガを収集していた。運命の番を探していた、自由恋愛だと主張しているが、実際はハーレムを作って——いや、違うな。コレクションだ。いいとこペットだ」
いくつもの会社を経営していた美鷹のスキャンダルを、マスコミはこぞって報道していた。
それで知った。
彼女は鳥を飼っていると言った。その鳥こそがオメガだったのだ。
琴鳥は思わず自分を抱きしめた。あやうく被害者の1人になるところだった。