飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
「だが、ちゃんと過去にすることができそうでよかった」
「え……?」
「好きだった、と過去形だったからさ。洗脳されてたら過去形で言わない」
 琴鳥は驚いた。弁護士というのはそんな細かいところに気付くものなのだろうか。彼だからなのか。
 思えば、彼はいつも彼女を助けてくれようとしていた。
 話し掛けられたときに割って入り、美鷹とのキスを邪魔して、近づくなと警告して。
 あのときは、それが怖かった。
 身なりのせいもあって、ストーカーだと言われて信じてしまった。
 琴鳥は腕をほどいて力なく膝に置いた。
「最初から弁護士って言ってくれたらよかったのに……」
「言わなかったか?」
「言ってません」
「ああそうだ、いつも君がフェロモンを出すから、言う暇がなかったんだ」
 鋭い目で睨まれた。
「そんな言い方、ひどいです。怒らなくても……」
 目に涙をためると、弁護士は困ったようにそっぽをむいた。
「怒ってるわけじゃない。俺は目つきが悪いからそう見えるだけだ」
 声には困惑があった。
「名刺も渡してなかったか」
「はい」
 彼は琴鳥に向かって名刺を突き出した。
 戸惑いながら受け取る。弁護士、神楽夕鶴(かぐらゆづる)、と書かれていた。今さら、名前すら聞いていなかったことに気がついた。
「なんで結婚詐欺だなんて嘘ついたんですか?」
「そのほうがわかりやすく美鷹を疑ってくれただろう?」
 確かにその通りだった。
「俺は毎回、きちんと注意したぞ」
「あんな言い方じゃわからないです。いつも不審者そのものでした」
「だから逃げようとしたのか」
 驚く夕鶴に、琴鳥のほうが驚いた。
「俺、そんなに怖いか?」
 じろりと見られ、琴鳥は身を引いた。
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