飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
「こわ……いえ、弁護士らしくて威厳があります」
「無理するな。今はメガネもないから余計に怖いか。いつも言われるんだ」
 がっかりしたように、彼はうつむいた。
「メガネは……怖さを減らすためだったんですか?」
「それもある。視力が悪いせいもあるが。割れてしまったからまた買わないといけない。余計な出費が増えた。器物損壊でも被害届をだしてやろうか」
 男は空を仰いでため息をつき、左手で髪をかきあげた。
 あらわになった目は、澄んでいて綺麗だった。
「メガネ、ないほうがいいと思います」
「は?」
 驚いた夕鶴がふりむく。
 ハッとした。夕鶴は左頬の傷を見せないように……琴鳥の心に負担をかけないように、左側に座ったのだ、と。
「きれいな目をしていると思います。メガネで隠すの、もったいないです。それに……髪を切ったら、もっと怖くなくなる気がします」
 視線が合う。琴鳥は目をそらせなくて、見つめ合った。
「そんなこと言われたの初めてだ。いつも怖いって言われてばかりだから」
 彼はそっぽを向いた。その頬が心なしか赤い。
 最初見たときはあれだけ怖かったのに、もう怖くなかった。
 照れた姿はいっそかわいくすら見える。
 瞬間、心臓が跳ねた。
 急激な心拍の上昇、体が熱くなり、全身が総毛立つような感覚。
 ヒートだ。最近はよくヒートが起きかけていたが、今回は本格的にヒートだ。
「なんで、急に……」
「うあ、やめろ、お前!」
 フェロモンに気がついた夕鶴が鼻をつまむ。
 が、すでに吸ってしまったらしく、苦しそうに胸を抑えた。
 琴鳥は慌ててバッグから液体の頓服薬を取り出す。が、慌てすぎたせいで、小さなボトルを落としてしまった。中身が全部零れてしまう。
「そんな……」
「ドジかよ」
 あきれながら、夕鶴はスーツのポケットを探る。
「ない」
 彼は自分の薬を切らしてしまっていた。
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