飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
 事務所に電話して、ストックを持ってきてもらうようにパラリーガルに伝える。
「どうしよう」
「下手に動くな。周りに人がいないここにいるほうが安全だ」
 はあはあと息を荒くして、信じられないものを見るように、彼は琴鳥を見る。
「——そうか」
 しばらくして、彼は納得したようにつぶやいた。
「今わかった。俺と君の運命がつながったんだ。だからヒートが起きたんだ」
 琴鳥は怪訝な顔で彼を見る。
「君が俺の運命の番だ」
「はあ!?」
 さっきと言っていることが真逆だ。
「運命の番って、最初から決まってるものなんじゃ……」
 だから運命と呼ぶのでは。
「それは運命じゃなくて宿命だろ。そんなもん、もはや呪いだ。相手がどんなクズだろうと離れられないなんて、たまったもんじゃない」
 琴鳥は呆然とした。
 運命の人だと思った美鷹が警察につかまったばかりだった。
 そして、運命の番を否定した夕鶴が、今度は運命の人だと言い出す。
 夕鶴の目がぎらぎらと琴鳥を見る。
 琴鳥の中の何かが沸騰した。
 夕鶴に手を伸ばす。
 彼はこらえきれず、琴鳥を抱きしめる。
「信じられん、運命否定論者の俺が」
 彼はうめく。抱きしめる腕に力がこもる。
 きつく抱きしめられ過ぎて、琴鳥は呼吸が苦しくなる。
「逃げろ」
 夕鶴がうなる。
 だが、琴鳥を抱きしめる腕はゆるまない。琴鳥も彼から離れたくなかった。
 同じことがあった、と琴鳥は思い出す。あのときは恐怖とときめきが同時に起きていた。
 なのに今は、恐怖など微塵もない。
 好きだった美鷹にすら恐怖を感じたというのに。
「あの男が運命の番かもな」
 と笑っている美鷹の姿も思い出された。
 そうだ、と気がつく。
 予定外のヒートが起きたとき、いつもそばには夕鶴がいた。
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