飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
 最初から運命は美鷹ではなく夕鶴を示していたのだ。
 琴鳥の胸がさらに高鳴る。
 どうしていいのかわからない。
 美鷹への気持ちなど比べ物にならないほど急激に夕鶴に惹かれる。
「私、おかしい……」
 おかしいと思うのに、美鷹のときと違ってなぜかそれが心地いい。
 熱く潤んだ目で夕鶴を見る。フェロモンの影響なのか、彼が愛おしくてたまらない。知らず、涙がこぼれる。愛しさがあふれだした証のように。
 がやがやと声がした。人が近付いてくる。
 まずい、と夕鶴が呟く。
 あの集団の中にアルファがいたら、混乱が起きる。
「薬なしでヒートを抑えるには性的な満足を得るといいという説もあるが」
 はあはあと息を荒げて、夕鶴が言う。琴鳥の息も荒かった。夕鶴を求め、胸の中は嵐が吹き荒れているかのようだった。全身が震えて、熱い。
「それをしない最終手段もある」
「じゃあ、それを」
「最終手段の意味わかってんのか」
 夕鶴の息は荒く、声がかすれる。
「でも、苦しそう。それに、人が……」
 公共の場でヒートを起こしてしまった人の映像を動画で見たことがある。多数のアルファがオメガを襲おうとしたりそれを抑えようとする人がいたりで大パニックだった。
「許可を出したのは君だ。後悔するなよ。責任はとる」
 夕鶴はそう言って琴鳥の肩を抑え、彼女を少しうつむかせる。
 彼がなにをするつもりなのか、琴鳥はまったくわからなかった。
 夕鶴が琴鳥の首をかもうとした、そのとき。
「痴漢弁護士!」
 叫びとともに夕鶴が蹴られ、体をくの字に折り曲げてうめいた。
「大丈夫!?」
 蹴ったのはパラリーガルの万希だった。肩で息をしている。走って来たのだ。
「薬も持たずに、バカなの!?」
「持ってるつもりだったんだ」
 夕鶴は薬と水のペットボトルを受け取り、すぐに飲む。
「だから私も一緒に行くって言ったのに、かわいい女の子だからって!」
「そういうんじゃない……君は抱えてる仕事があっただろう」
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